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猛暑であり、なおかつ台風や豪雨、おまけに浅間山の噴火まであった今年の夏休みが終わりました。皆さま、いかがお過ごしでしたでしょうか。
私は自分のやりたいことをやり、非常に良い休日が過ごせました。(家族の協力に感謝!)本も何冊か読みました。そして、今年の夏のいちばんの収穫は、ダンテの『神曲』と出会ったことでしょうか。恥ずかしながら私は、『神曲』は文学史上に残る傑作と知りながら、これまで読んだことがありませんでした。実は本を1冊読み終わっても『神曲』の最後まではまだ到達できていないのですが、こんなにすごい本であるとは知らず、ただただ鳥肌が立ちました。ご存じの方にはお恥ずかしいですが、私が感動したところをいくつかご紹介したいと思います。
まずは『シンキョク』ってどんな話?というところからですね。1300年代の初めにイタリア語で書かれた詩で、作者ダンテが最も影響を受けた詩人ウェルギリウスとともに地獄、煉獄、そして愛するベアトリーチェのいる天国とへと旅をする物語です。旧約聖書、新約聖書、ギリシャ神話が盛り込まれていますので、キリスト教を理解することが出来る上、当時の政治的な腐敗や人間的な堕落を批判していており、まさに人類救済のために書かれた詩と言えます。しかし、実はこの『神曲』は、ダンテが愛した女性ベアトリーチェへの愛を謳った恋愛詩なのです!たった1人の女性に捧げる詩がこんなにも壮大であるとは。ベアトリーチェはなんて幸せな女性なのでしょうね。
スケールの大きさもさることながら、『神曲』の凄さはその構成にあります。
まず、地獄篇・煉獄篇・天国篇と3つの篇から出来ていますが、それぞれ33歌ずつ、そこに全体の序章1歌を加え、全部で100の歌章から作られています。「3」という数はキリスト教の三位一体を表す数、そこに唯一の神を表す「1」を足すと33×3+1=100となり、完全数「10」をかけあわせた数10×10=100になります。
そして、『神曲』は11音節の詩行を3行1組とする《三行詩節》というので作られており、1行おきに3回ずつ韻が踏まれています。この形が全詩行14233行にわたって繰り返されているのには驚きです!
また、各篇の最後の単語はすべて「stelle(星々)」となっています。これは人間の最終目標が魂の故郷である「星」にあるというメッセージのようです。
このほかにも、出てくる単語の位置によって美しい円が描けたり、三角形、半円、四分円なども描ける、非常に数学的、幾何学的な語の配置になっているのです!例えば「調和」を意味する「armonia」という単語は天国篇の中に3回だけ(これも「3」!)登場しますが、冒頭から3回目の単語までの行数(2340行)は1回目の単語から最後までの詩行(4680行)のちょうど1/2になり、2回目の単語から3回目の単語の間の詩行(1514行)と篇全体の詩行(4758行)との比は、1514行:4758行=7:22で、これは円周率πとなります。ですから、1514行(直径):4758行(円周)になるわけです。
このように「調和」のとれた詩の作りになっているんですよ。すごくないですか?
こんな詩を書いたダンテもすごいし、隠された秘密を解読した研究者もすごいですね。
皆さまもこの緻密に計算しつくされた文学的、数学的、天文学的、神学的、超自然的、神話的、芸術的な壮大で美しい詩に興味を持たれましたらぜひご一読ください。ただし日本語訳だけで読んでしまうと、表面的にしかわかりませんので、解説書が必要です。
以下の参考文献から引用させて頂きましたので、こちらも併せてご覧ください。
ダンテ・アリギエーリ『神曲』地獄篇(第1歌~第17歌)須賀敦子、藤谷道夫訳(河出書房新社、2018)
藤谷道夫『ダンテ「神曲」における数的構成』(慶應義塾大学出版会、2016)
このように、私の夏休みは『神曲』の魅力にとりつかれた休暇となりました。そして私はまだ地獄におります(笑)ので、これからも読み続けて天国まで到達したいと思います。
今回は夏休みにつき、教室の話題はゼロでした。すみません。
ではいよいよ2学期が始まります。頑張っていきましょう!