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昨夜は、中秋の名月を雲の隙間からほんの一瞬だけ拝むことができました。
9月も後半になったというのに、日中は30℃を超える暑さが続いていますが、それでも朝晩はいくらか秋の気配を感じるようになりました。
教室では、ハロウィンの学習発表会に向けて、少しずつスピーチの練習をし始めています。そんな中、最近小学校高学年クラスでは、「今日、英語の話ある?」と、子どもたちからの素朴な疑問に答えるこのお話を楽しみにしてくれている子がいるようで、とても嬉しく思います。今年のハロウィン・パーティでは、この「小学生版・英語史クイズ」をやろうかと考えています。
ということで、今月は小5男子からの質問で「know, often, hourはなぜ読まない字があるの?」です。
knowだけでなく、<k>で始まり、それを発音しない単語は knife(ナイフ)、knight(騎士)、knee(膝)、knock(ノックする)、knit(編む)、knob(ドアノブ)、knot(結び目)、knead(こねる)など、たくさんありますね。なんで読まないのに書いてあるの?書いてあるなら読めば?…という疑問は、子どもだけでなく、大人でも持っている人は多いと思います。
実はこの<k>の文字は、昔は「ちゃんと読まれていた」のです。
300年くらい前までは発音されていたのが、17世紀末から18世紀にかけて、kn-で始まる単語の<k>の音は徐々に脱落していきました。
know /knou/ →
/hnou/ → /nou/
クノウ → フノウ → ノウ
という感じです。
kn- で始まる単語だけでなく、gn-で始まる単語、gnaw(かじる)、 gnash(歯ぎしりする)も同じです。<k>や<g>の音は発音しなくなったのに、綴り字はすでに固定していたため、文字と音がちぐはぐになってしまったのですね。
では、oftenの<t>はどうでしょう。
これも17世紀までは発音されていましたが、18~19世紀に<t>の音が脱落してしまったのです。often の綴りと音をよく見ると、<f> <t> <n>と子音が3つ繋がっています。このように、3つの子音の連続において、真ん中の子音が脱落する傾向にあるようです。castle(城)、Christmas(クリスマス)、listen(聞く)、soften(柔らかくする)もこの仲間です。
しかしおもしろいことに、「文字があるなら読もう」と、近年 /ɑːftn, ɔːftn/ のように<t>を発音する人が増えてきているようです。
最後に、hourの発音しない<h>について考えてみます。
<h>の音は最初から発音されずに文字だけありました。hour(時間)、honest(正直な)、hono(u)r(名誉)、heir(相続人)など、これらに共通するのは「すべてフランス語から入ってきた語である」と言うことです。フランス語では<h>は発音されませんし、その元のラテン語もそうです。ですから、発音しないけれど綴り字はそのまま残った、と言えそうです。
ただ、同じフランス語から借用した語であっても、habit(習慣)、heritage(遺産)、history(歴史)、hospital(病院)、host(主人)、human(人間の)などは<h>を発音するため、なぜhourやhonestでは<h>を発音しないのかは、残念ながらはっきりと説明できないところです。
…と今回は以上です。そして小学生の感想はこんな感じでした。
「know(クノウ)やoften(オフトゥン)は学校で英語の先生に使ってみようよ!」
「みんなでoften(オフトゥン)を言い続ければ、学校で教わる発音も(オフトゥン)に変わるよね?!おれらでまた発音変えていこうぜ!」
おぉ、なんと頼もしい~。
<参考文献>
『英語語源辞典』〔縮刷版〕、研究社、2022年
『ジーニアス英和辞典』〔第6版〕、大修館書店、2023年
堀田隆一『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社、2017年
#31. なぜ know の k は読まないの? | 堀田隆一(英語史研究者) #heldio「英語の語源が身につくラジオ
(heldio)」/ Voicy – 音声プラットフォーム
#3941. なぜ ”hour”, ”honour”, ”honest”, ”heir” では ”h” が発音されないのですか? (keio.ac.jp)